BARおくすり店長日記

BARおくすりの店長が日常思ったことを書きます。

上品な映画と下品な映画

 

最近、DVDでホット・ファズという映画を見た。イギリスのエリート警官が主人公のコメディだ。この映画はとてもおもしろかったのだが、上品なのか下品なのかでいうと、ちょっと判断しにくいところがある。映画をむりに上品か下品かで分ける必要もないのだが、自分が好きだと感じる映画には上品なものが多く、反対に嫌いだと思う映画は下品なものにあることが多いので、上品か下品かというのは自分にとって好き嫌いを見極めるための効果的な基準になる。上品に分類された映画はそのまま好きだと言っていいし、下品だと分類された映画はべつの基準に当てはめてみて好きか嫌いかを判断すればいい、ということになる。

最近映画館で見た「TOKYO TRIBE」「リスボンに誘われて」「ジャージー・ボーイズ」の3作品を例にあげて、上品/下品で分けるとすると、

 

TOKYO TRIBE 下品

リスボンに誘われて 上品

ジャージー・ボーイズ 上品

とりあえず第一感ではこんなふうに分類できると思う。ちなみにどれも好きな映画だった。

 

まず「TOKYO TRIBE」だが、この映画を上品だとか品があるという人はいないと思う。園子温映画にそんなものを求める方がどうかしている。逆張りの達人でもこればかりはできないだろう。黒を白という方がまだ簡単だと思う。でも僕が「上品こそ至高」という下品な趣味に走らないでいられるのはこういう映画があるからで、そういう意味では上品な映画だということはできるのではないか。いや、さすがに苦しい。それでも見方を変えれば上品とは言えなくても「けっして下品ではない」とは言える。それもギリギリ言えるというのではなくゆうゆうと言える。まあ、いくらゆうゆうと言ってもそんなの意味ないので、これは下品だと断言していい。そっちの方がサッパリしている。

 

つぎに「リスボンに誘われて」。この映画を上品に分類しない場合、上品な映画というカテゴリの作品は20を切るんじゃないかと思う。それは優れた審美眼というよりも行き過ぎた審美眼というもので、それはそれで上品とは思えない。そのためこの映画は自動的に上品な映画に分類されることになる。映画にかぎらず上品なものにはそういうところがある。勝手に、周囲の動きによって上品にさせられるというような。あたかもお姉ちゃんが勝手に応募したアイドルのように。では具体的にこの映画のどこが上品なのかというと、主人公が初老のメガネで、ヒロインがアラフォーの美人眼科医というところに端的に表われている。出会いは旅先で壊れたメガネを新調するというもの。思いつきの旅がリスボン行きの夜行列車に飛び乗るというところも洒落ている。何よりジェレミー・アイアンズのロマンスグレーは抜群の安定感がある。安心して見られること、ノイズが少ないこと、いずれも上品な映画の条件として大きい。

 

そして「ジャージー・ボーイズ」。イーストウッドは上品さというものに見向きもしない。そんなことに注意を払う必要がないからだ。その意味で園子音と似ているが、イーストウッドがちがうのは彼の撮ったものは自動的に上品さを帯びるということだ。本当のところは気にしているのかもしれないが、そんな素振りはまったく見えない。やっぱりジジイはすごい。ベタベタなストーリー展開を撮らせてもヒネった展開を撮らせても変わらない安定感がある。「ジャージー・ボーイズ」はミュージカルで、これまでのイーストウッド映画にはない手法がいくつか用いられているが、付け焼き刃の感じは一切ない。中盤の歌うシーンがタルかったのと照明がテカテカしているという問題点もあったけど、それは上品下品というより個人的な好みの問題かと思わせられるぐらい、イーストウッドの権威は絶大だ。ラストの盛り上げがすごかったのでそんな些事に目を向けさせない力業もすごい。正しくミュージカルだという気がする。主人公の歌声が好きになれないというミュージカルにとっては致命的ともいえる感想をもって見ていた僕にも、最終的にとても面白かったという感想を抱かせるにいたった延命術がすごい。少しでもノイズが入れば完全に途切れていた集中を途切れさせなかったのは隅々まで行き届いた品だったと思う。当然「イーストウッド映画」という安心感もあったけど。

 

ここまで3作品を通して映画の上品/下品を考えてきて、そのふたつを分けているのは詰められているかどうかだといえる。映画というのはひとつの箱で、中身がきちんと整理されているとより多くのものが入る。蓋を開けてみて、箱のサイズから想像したよりも多くのものが出てきたらそれだけで感心してしまう。入っているものがはるかに少ない場合も感心してしまうが、その感心は長続きしない。

ホット・ファズは理詰めで作られているから面白い。というより理詰めで作られていないコメディに面白いものなんかない。ようするに面白いコメディには必ず上品なところがある。その意味でホット・ファズは文句なく上品だし、TOKYO TRIBEもいくらか上品だといえる。

下品なところもあるけれど、そこには目をつぶるのが見る側に求められる上品さというものだ。