BARおくすり店長日記

BARおくすりの店長が日常思ったことを書きます。

NTLのハムレットを見た

 

ナショナルシアターライブの「ハムレット」を見た。

ローリー・キニア主演、ハイトナー演出。現代を舞台にした劇だった。上映時間は240分(うち休憩時間20分弱)とボリュームたっぷりで、シェイクスピアの戯曲を丁寧になぞっているところに好感をおぼえた。

しかし全体的にはあまり納得のいかない出来で、満足よりも不満の方が大きかった。これもNTLで見たサム・メンデスの「リア王」に比べると数段劣る。

以下に気に入らないところを列挙する。

 

 

・衣装がかっこよくない

まず、現代劇でかっこよく見せようと思うなら、どれだけスーツがビシッと決まるかに懸かっている。今作でいうとクローディアスのスーツ姿を見ただけで作品全体の格調を判断できる。そこさえ決まれば、あとはTシャツ、ジャージ姿とどれだけ崩していっても幅と捉えることができる。逆にスーツが決まらないと、全体にダラダラした格好という印象を拭えなくなる。ダラダラした格好は世界観さえダラダラしたものに見せる。今作がダラダラしていたというのは言い過ぎにしても、なんとなくタラっとしているような最終的にどこか締まらない感じを受けた。

 

・音楽がチープ

異化効果を狙っているつもりなのか、音楽や効果音にとってつけたような安っぽさがあった。あえてそういうふうにしているのかもしれないが、普通に「二流」だとしか感じられなかった。音楽以外が完璧に荘厳であったなら、おもしろい試みになったのかもしれない。でもそうじゃなかったので音楽にホームメイドを感じた。ナショナルシアターに手作り感はいらないと思う。

 

・キャスティング問題

名前を知っている俳優がいなかったので役名で言うが、ハムレット、オフィーリア、ガートルードはとくにダメだった。

ハムレットはハゲではいけない。*1 身長ももう少しほしい。*2 Tシャツ姿が主だとしても、スーツを着たらさぞ似合うだろうなと観客に思わせるような美形でないと。そもそもハムレット役がきちんとハムレットに見えなければ他のキャストだってどうしようもない。

オフィーリアもはっきり言って中途半端で、かるく攻めてる感じを出してみましたという風情がこざかしい。ハムレットの格に合わせるならこういうふうにせざるを得ないという悲哀を感じる。バリバリクラシカルなオフィーリアを用意してもハゲのハムレットには似合わないとなると、落とし所としてはベストを尽くしている感はある。そういう悲哀はいらないのだが。

ガートルードに関しては醜すぎる。あれではクローディアスが権利欲一辺倒の男にしか見えない。「弱きもの、それは女」というセリフをあのガートルードに対して投げたのではギャグ漫画にしか見えない。

こんな見え方の役者たちにGOを出した演出家の美的価値観はどうなっているのか、精神の美しさを讃える派なんだろうか。それにしては現代の監視社会における問題を扱っていると言ってみたり、社会に対して開いているアピールもつよく、雑な美観の持ち主としか思えない。

美しい・醜いは主観の問題なのであんまり言い過ぎるのもよくない、ほどほどにしておく。

 

 

フォローするわけではないが、ハムレットを上演すると絶対に文句が出るものだと思う。戯曲の完成度が高すぎ、読者が各々勝手に世界を作り上げてしまうから、彼らの頭のなかにある理想と比べて実際のものを貶すという流れに入りやすい。

だからといって、見る方はそういう事情を鑑み、いくらか割り引いて見ないといけない、とも思わない。作る方も文句がいくらでも湧いてくることを承知で作っているだろうし、ハムレットを演出したり、ハムレットに出演することがしたくて、これでどうだと思って作っているにちがいない。

上演された作品から気に入らないものといっしょに気に入るものをいくつか見出だせたならそれで結構満足もできるし、気に入らないところに文句を言うというのも含めてひとつの遊びになるのがハムレットだと思う。

文句を言う遊びは上に書いたとおり。

おっ、と思ったのは「ん〜ん、ん〜ん、ワーズ」というシーン。あと、ローリー・キニアはハゲだけど発音がものすごく綺麗で、ハムレットのセリフが明瞭な声で楽しめたのもよかった。中でも時間をたっぷり取って脚本に忠実だったのが今作の一番よかったところ。

結論としては、今作がもし朗読劇だったなら、満点とはいかないまでも満足間違いなしだったと思う。

いや、朗読劇にしても音楽が駄目か。ん〜ん、やっぱりハムレットはむずかしい。

 

 

*1:ハゲはわるくないと思うし誰がハゲでもべつに問題ないと思うけどハムレット王子だけはダメ絶対。

*2:身長なんてどうでもいいと思うし以下略。